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会話が苦手な人のための英会話学習法

世の中には 2 種類の人間がいる。英語が喋れる人間喋れない人間だ。

デザイナーは英語ができた方がいいのか、という議論は時々話題になる。議論するまでもなく、できた方が良いのは明白だ。

Human Interface Guidelines や Material Design Guidelines をはじめ、あらゆるドキュメントが英語で提供されているし、デザインに関するニュースは、英語のものが最新だったりする。アラン・クーパーの『 About Face 』だって 4 は日本語に翻訳されていない。( ※ 1 )

しかしまあ、日本で仕事をしていると、そもそも英語で話す機会などほとんどない。いや、喋れたらそんな機会も発生するのだろうが、別に喋れなくても何不自由なく生活できる。専門的な内容の本もわりと早く翻訳されるし、そうこうしている間に " ほんやくコンニャク " ( ※ 2 ) 的なものが登場して、英語を頑張って習得する必要などなくなるのではないだろうか。

...といった具合に、やらない理由を探しつつ、英語を学ぶことを後回しにしているデザイナーはそこそこいる...と思う。かくいう私もそうだった。

読めればいいや

そうはいっても、私も全く英語に接していないわけではない。そもそも英語は日本でも義務教育で習うし、高校や大学でもそれなりにやってはいたのだ。でも喋れない。

英語の本を読むのも好きな方だと思う。
私は向山貴彦という作家が大好きで、彼の本は全部読んでいるのだが、彼は日本語でも英語でも本を出している。英語の本は有名なのできいたことがある人も多いと思う。

『 ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の本 』をはじめとする、エドと太った猫の物語だ。このシリーズは、文法用語を使わず、二つの箱と矢印だけで英語のルールを解説した本と「英語を読むため」の物語 BFC BOOKS で構成されている。BFC シリーズとして愛されているこの物語は、英語なのだけどちゃんと向山貴彦な感じがする。私がとても大好きな本だ。

ところが本当に悲しいことに、向山貴彦は昨年、若くしてこの世を去ってしまった。だからもう、彼の新しい作品を読むことはかなわない。

しかし彼の英語作品を読んだのがきっかけで、私は自分が幼い頃読んでいた児童書を原書で、つまり英語で読むことを楽しむようになった。

私が英文を読むときは基本 BFC 読みをする。つまり辞書をほとんどひかず、2つの箱となる単語と矢印に注目し、頭から読んで英文を直接イメージにしていく。

マージョリー・W・シャーマットの『 ぼくはめいたんてい 』とかメアリー・ポープ・オズボーンの『 マジック・ツリーハウス 』とか。簡単な言葉で綴られていても、けっして子供だましではない英語圏の児童書は、大人が読んでも夢中になるものばかりだ。

けれど、英文をみてそのまま絵を思い浮かべて読むこの手法は、喋ったり聞いたりする能力があまり身につかない。文字を音声にすることを省略して直接映像にしてしまうから。セリフ部分は一応それなりに読むのだけど、なんか適当だし。

そう、会話はやはり会話によって身につくのだ。いくら読んでも会話はできない。そして英会話以前に、日本語の会話さえ得意ではない私は、もう「英語は読めればいいや」という心境になっていた。会話は言葉のキャッチボールだと言うけれど、私はキャッチボールが苦手なのだ。

青天の霹靂

そんな風に思っていた私に転機が訪れた。WWDC に参加できることになったのだ。WWDC とは、毎年 6 月に San Jose で行われる、Apple のディベロッパー向けカンファレンスのことで、 Fenrir では数名のエンジニアやデザイナーが WWDC のために渡米している。私は今年、その数名の候補として選出されたのだ。

しかし会社には英語が堪能なデザイナーがたくさんいる。普通に考えて全然英語ができない私が行くべきではないだろう。遊びに行くんじゃないんだし。それに WWDC の Keynote は、インターネットでライブ配信される。セッションについても、字幕付きの動画として Apple の Webサ イトで後日閲覧できるのだ。だから何も私が San Jose まで行かなくても。そう、これまで通り私は深夜家のパソコンにかじりついて、Twitter で実況しながら配信を見ていたほうがいいのではないか。だいたい子供はどうするのだ。一週間も家を空けても大丈夫なのか。

「 そういうわけで選ばれたけど、どうする?」
「行きます!」

...まあこういう時は、あれこれ考えず反射神経だけで動くのも大事だ。

ミッション

威勢よく返答したものの、実は私は海外への渡航自体未経験。当然パスポートは真っ白。さすがに丸腰で挑むのは入国審査も危ういだろう。
その時、WWDC までの猶予は約 2 ヶ月。この期間にある程度の英語力を身につける必要があった。

ではまず、今回の目的を再確認しよう。たった 2 ヶ月なのでやれることは限られている。なぜ毎年 Fenrir のエンジニアやデザイナーが WWDC に参加しているかというと、それは Apple のエンジニアやデザイナーに直接質問ができる Lab というものがあるからだ。

Lab はこれまでの開発においてでてきた疑問点や、新しく発表された機能、UI デザインやアクセシビリティについてのアドバイスをもらえる貴重な機会だ。そしてそれらは基本すべて英語で行われる。

つまり私の一番のミッションは、

英語で初対面の複数の人と会話し疑問点を解消すること 

えええ...難易度が高い!

オンライン英会話で会話の練習

会話を上達させるには会話が必要だ。しかし 5 歳保育園児がいる我が家は子育てシフト。英会話スクールに通う余裕などない。そこで手軽にはじめられそうなオンライン英会話を利用することにした。

オンライン英会話は、複数社がサービスを展開している英会話学習サービスで、Skype や サービスが提供する独自ツールを使って自宅にいながらオンラインで英会話が学べる。
サービスによってそれぞれに特色があるが、基本的には月 5 千円〜 6 千円で、毎日 25 分程度の授業を受けることができる。

オンライン英会話サービスは本当にたくさんあるので、どれにするか迷ったが、私はとりあえず、当時初月半額キャンペーンをやっていて、先生の国籍が多様な DMM 英会話を利用することにした。WWDC は世界各国からディベロッパーがやってくるので、できるだけ多様な "なまり" の英語を聞いたほうがいいのではないかと思ったからだ。

というわけで毎日夕食の片付け後に、自宅の脱衣所にパソコンを持ち込んでレッスンに励んだ。なんで脱衣所かというと、狭い我が家にはいい感じに音と視界を遮蔽できる場所がそこしかないからだ ( あともう一箇所あるとしたらトイレだ )。

え、毎日?そう毎日 !

子育てシフトは特定の曜日だけイレギュラーが発生する運用はかえって難しい。むしろ毎日やるほうが簡単。それに定額で毎日できるのにやらないってもったいないじゃないか。

オンライン英会話の先生は、基本的に日本語は話さない。( ※ 3 )

なので最初の挨拶から終了まで会話はすべて英語だ。DMM英会話では、教材( オンラインで閲覧できる ) を使うレッスンやフリートーク、スピーキングテスト、TOEIC 対策などができるが、初心者は教材ベースがやりやすいと思う。いきなりフリートークはちょっとハードルが高い。教材ベースのレッスンでも、淡々とテキストを進めて行くわけではない。最初の自己紹介とか、合間にいい感じに雑談をはさんでくれる。

はじめは早口で話してくる先生も、私がゆっくり話すとそれに応じるようにゆっくり話してくれる。発音を勉強したい人用に、追加料金で発音がネイティブの先生を選べるプランもあるが、そもそも私は今、美しい発音を目指しているわけではないので利用しなかった。

予約のシステムは、レッスンが終わるごとに次のレッスンを予約でき、時間と担当の先生を選べるようになっている。
今回は初対面の複数の人と会話できるようになる事も目的の一つなので、毎回違う先生を予約するようにした。

評価コメントはそんなに気にしてなかったが、プロフィールに「コンピューターサイエンスを学んだ」とか「ネットサーフィンが趣味」と書いている人を、できるだけ選ぶようにしていた。Web とかプログラミングとか Apple の話題で盛り上がれるからだ。実際、フロントエンドエンジニアの仕事もやっている、という人が何人もいた。

教材は初心者向けの、簡単な自己紹介や挨拶などの会話を練習するものを選んだ。また、入国審査が不安だったので、渡米の 1 週間前くらいからは、入国審査の練習をやってもらった。ちょっと特殊な質問とか、分からなかった時の聞き返し方とか色々教えてもらえた。

毎日 25 分英語を話すことで、はたして英会話が上達したかというと微妙なところだ。しかし、片言でもとにかく話すことと、分からない時に聞き返す能力はだいぶ上がった。瞬発力がついた感じだ。

そもそも初めて会う人と話す事自体苦手だった私が、毎日言葉の通じない初対面の人と話すこと自体革命的な変化だった。

英語を聞きながら読むのを楽しむ enHack

合わせて、通勤の電車では英語を聞きながら読むことにした。もともと電車では英文の児童書を読んだりすることが多かったのだが、英語の聞き取りに慣れるため、音声つきのものを聞きながら読んだほうが良いと思ったのだ。

そこで私が利用したのは enHack だ。 enHack は Web、iOS、Androidアプリで利用ができる英語学習サービスで、構文解析したニュースなどの英文を音声つきで楽しめる。

構文解析とはどんなものかというと、まず動詞が太字で表示される。切り替えると、SVOC が表示される。単語をタップすると意味が和英・英英辞書で詳細に確認でき、ツリー表示では係り受けまで分かってしまう。

もちろん全文読み上げ可能でスピード調整、聞き流し設定もできる。さらに言うと、読むだけでなく、シャドウイングなどの話す練習のための機能も豊富だ。そう英語学習に必要なあらゆる機能がついている。

すごくないですかこれ、神アプリですよね。
なぜか無料で使えるし!!!

えええ課金するのでずっとなくならないでほしい...!

何よりも好きなのが、このアプリを使うと英文を読むことを楽しめるという所だ。まるで BFC シリーズのように色んな英文を英文のまま、そのまま読み、聞き、話すことができる。

そう私は、日本語に翻訳されたものを読みたいわけではなくて、本当は英文をそのまま読みたいのだ。そして構文解析のサポートがあれば、それが可能だ。これはもう支援技術といっていいのではないだろうか。Kindle とか、英語のニュースサイトとか、あらゆる英文に enHack を入れてくれたらいいのにと思う。

そして2ヶ月後

そんなこんなで、あっという間に渡米の日がやってきた。
まあ最初から分かってはいたけれど、2 ヶ月程度でそんなに上達するわけもなく、オンライン英会話の先生に「San Joseでは英語が話せる同僚と手をつないでおけ」とアドバイスされる有様だったが、入国審査は意外と大丈夫だった。

不安そうな私を察してか、入国審査官の方はとてもゆっくり話してくれた。質問は、渡米理由とか、滞在期間とか職業とか、事前練習済みのものだった。ちなみに「WWDC」は「Apple World Wide Developers Conference」と省略せずに言う方が通じるらしい。

アメリカ滞在中は英語が堪能な同僚 4 人 ( というか私以外全員英語できる ) と行動をともにしていたし、Design Lab では、 Human Interface Guidelines や WCAG といった共通言語がある上での会話で、かつ通訳までつけていただいたので、そこまで困ることはなかった。

同僚のうち一人は、英語、日本語、スペイン語のトリリンガルなのだが、San Jose はスペイン語話者が多く、Lyft の運転手さんや店員さんなど、英語よりもスペイン語のほうが多く話したのではないかといっていた。そういえば San Joseという街の名前がそもそもスペイン語だ。

とはいえ私も、アドバイスどおり同僚と手を繋いでいたわけではない。

アクセシビリティのランチセッションに参加して、昼食を囲んでみたり、一人ずつ声をかけてスタッフTシャツのバックプリントの写真を撮らせてもらったり、スターバックスで注文したり、しゃべれないなりにコミュニケーションは取れていたと思う。...ちょっとモジモジはしてたかもしれないけど。

個人的な一番のトラブルは、ホテルのカードキーが反応しなくなった事で、フロントに駆け込んで助けてもらった。とりあえず困っているから助けて欲しい事を伝えたら、あとは片言とジェスチャーでなんとかなった。

ちなみに私が海外出張中の約一週間、子供は夫と楽しく過ごしたらしい。帰ってきて「寂しかった?」と聞いたら「ううん別に」と言われて、私は寂しかった...。

下手な英語を聞くのが上手なアメリカ人

San Jose に行って実感したのは、アメリカ人は下手な英語を聞き取るのが上手いということだ。だから無理に上手に英語を話そうとしなくても良い。

一生懸命正しい発音に近づけようとするよりは、思いっきり日本語なまりで話しかけたほうが、相手も「こいつ、英語下手だな」と察知してくれるのでやりやすい。英語っぽく「Water」ってオーダーしたときはコーラが出てきたが「ウォーター」と言った時は、何回か聞き返されたものの、最終的にちゃんと水がでてきた。

何回かやり取りすることになっても結果通じればいいのだ。そして聞き取れなかったら何回も聞き返せばいいのだ。

アメリカで働く、となるとそんな調子ではいけないかもしれない。優しく親切な人ばかりでもないだろう。けれど会話しなければ、会話は上達しないのだ。だから片言でもたくさん話したほうがいいと思う。

そうやって、いつか上手くなったら、自分も発音が下手な人にうんと優しくすればいい。自分がだれかにしてもらった親切を、別の誰かに返せばいいのだ。たぶんアメリカ人はみんな、そうしているんじゃないかな。

私は日本語でも、電話や懇親会などの会話で、人の名前とか社名聞き取るのが苦手だった。けれど英会話を勉強しはじめてから、だんだんと聞き取れなかったら何回でも聞き返せばいいか、というマインドになってきた。

そもそも会話ってそういうものなんじゃないだろうか。私はこの歳になってはじめて、会話というものが理解できた気がする。

英語を勉強すると、日本語の私も変わってしまうようだ。

語るべきこと

今、英語ができない私のような人は、英語ができる人を横目に見つつ「どうせ自分なんかが英語話せても」みたいに思っているかもしれない。

正直、若いうちに英語が習得できるかどうかは、本人の努力はもちろん、留学できるとか、頻繁に海外に行けるとか、ある程度の財力を実家が持っているかどうか、という部分が大きいと思う。

だからそういう環境的な要因でもって、自分で勝手に線をひいてしまっているところが結構ある。

でも今の時代は、月 5、6 千円で毎日英会話のレッスンを受けることができる。そして大人になれば、それくらいのお金は捻出できる。無料体験もやっているし、一度習慣化してしまえば、勉強と言えども結構楽しい。

私は WWDC への参加のために英語学習をはじめたけど、終わって日本に帰ってきてからも毎日続けている。なぜなら、来年も WWDC に参加して、そこにいるデザイナーやエンジニア達と、もっともっと話したいからだ。

" 話したいことがあるのなら、伝えたいことがあるのなら、きっと人はその言葉を手に入れる。語るべきことを持つことは、語る言葉を持つよりもずっと初めにあって、それでいてずっと難しいことなのだ。"
- 『図書館の魔女』 高田大介 ( ※ 4 )

いま英語が話せないのは、あなたが怠惰なわけでも、才能がないわけでも、その資格がないからでもない。言葉を手に入れるためには " 語るべきこと"さえあればそれでいいことに気づいていないだけだ。

英語の学習は、いつでも、誰でもはじめることができる。だだ " ちょっとしたきっかけ " があれば良い。アメリカのドラマや映画にハマったとか、最近ヘヴィーメタルが気になるとか、鈴木大拙の英語の本を原書で読みたくなった、とか。そんなことでいいのだ。

私のきっかけが WWDC だったように、この記事がもし、「自分には英語なんて無理」だと思っていた誰かの " ちょっとしたきっかけ " になれば、とても嬉しい。

...まあでも " ほんやくコンニャク " の登場には今後も期待している。

* * *

書き手:デザイン部 高取 藍

* * *

( ※ 1 )
頼むから翻訳してほしい。

( ※ 2 )
ほんやくコンニャク
藤子・F・不二雄の漫画『ドラえもん』に出てくるひみつ道具。見た目や味はコンニャクだが、食べるとあらゆる言語を自国語として理解できるようになる。お味噌味、アイス味など味のバリエーションも豊富だ。

( ※ 3 )
DMM英語の場合、追加料金で日本語が分かる講師も選べるが、今回の目的からして丁寧に文法を教わったりしたいわけではないので、そのサービスは利用しなかった。

( ※ 4 )
『図書館の魔女』( 下 ) 高田大介 著 において、衛兵アキームが恋心を抱いている女性、イラムと会話するため、イラムの言葉 ( 手話 ) を習得するエピソードにて出てくるセリフ。



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コメント3件

はじめまして。
私も一年前までは英語がボチボチ読めれば大丈夫な会社におりまして、学生時代に一番得意だったはずの英語が苦手分野になるほどでした。
が、一年前に事故で(笑)、転職することになり、英会話スクールに大枚はたいて通いました。
が、スクールって「さあ聴くぞ!」、「さあ話すぞ!」と気合ばっかり入って、実際に海外でそんなピリピリした奴なんていないんですよね、笑
転職した当月渡米し、海外での御作法はわからないわ、ネイティブイングリッシュを聴き取れないわ、必死で話しても支離滅裂でダメー、という感じで相当落ち込みましたが、2回目は割とひとりでいる時間もあり「エイやっ!」で臨んだらまあそこそこ、3回目は完全にひとり出張で某国際学会へ。登壇者ではなかったのですが、会場質問もし、協業の約束もいくつか取り付け、自社PRもかなり鮮烈な形で行いました。随分たくさん名刺をいただきました。あの学会で得たものが一番多い日本人と自負しています、笑
そして、来月から某外資系企業に移籍します。
結局は度胸なんじゃないかと。いまだに発音も文法も適当ですが、相手が何を伝えたいかわかるし、こちらの意図も伝わるし。
あまり小難しく考えなくても、発言すべきところで相手がほしい、もしくは相手の想像の上を行く発言ができれば一目置かれるようです。
そういう意味ではエラー覚悟の出張チャンスを二回いただいた現職に感謝、感謝です。
まあ世の中うまいことできていると思います、笑
初めまして。
enHank凄いですね!
早速入れてみました♪
教えていただきありがとうございます。
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