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「 インパクトがない 」 と 言われたら

「インパクトがない」
クライアントに出来上がったデザインを見せる時、そう言われた経験はないだろうか。私は何度もある。

言われると、自分の作ったデザインに魅力が無いのかと、少し落ち込んだりもする。やはりどちらかといえば、衝撃を与えたい。

しかし何度か言われて気づいたが、「インパクトがない」と言う人が欲しがっているのは、ほとんどの場合「インパクト」ではない。ただ「なんか違う」という違和感を、うまく言語化できずにそう言っているにすぎない。「インパクトがない」が出てくるのは、たいていヒアリング不足か説明不足が原因だ。

ヒアリング不足でブランドの方向性やイメージが共有できていないと、見当違いの提案をしてしまう。よくできているけれど、方向性が欲しいものと少し違う、そんな時「インパクト」という言葉がでてくる。

「方向性が違う」と言ってくれたらいいのに、と思うかもしれないが「方向性が違う」から違和感を感じているということ気づくのは意外に難しい。

そうなったらヒアリングのやり直しだ。理解が足りてないのがデザインに現れてしまっているから。

イメージの共有はできているし設計も問題ないに、という時は説明不足だ。絵を見せただけで、ストーリーの共有ができていない。なぜこのデザインを採用したのか、どういう経緯なのかを丁寧に説明すると「インパクト」の話はどこかへいく。欲しがっているのはストーリーだ。

ストーリーの共有には、プレゼン用の資料を作るのが一般的だ。最近では、いきなり完成したビジュアルを見せるのではなく、アイデアスケッチやラフを見せて過程を共有するという手法もある。

人はまだ見ぬ欲しいものを、明確な言葉にできない。
そりゃそうだ。デザイナー自身でさえ、自分の作ったものをうまく言語化できないのに、まだできてさえいない理想の形を、明確な言葉で表せる人などそういない。

だから発された言葉がどういう意味を含んでいるのか、デザイナーはじっくり掘り下げていく必要がある。

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「インパクトがない」以外にも、言葉どおりにとらえると危険なフレーズが、他にもたくさんある。


シンプルに

シンプルでイメージするブランドのようなビジュアルに近づけたい

シンプルというのはスタイルというよりはブランド全体のコンセプトだ。したがって、出来上がったデザインカンプへの要望としては根本的すぎる。
シンプルが成立するためには、サービスやブランドの設計からシンプルになるように考えなくてはならない。しかしよくよく聞いてみると、そこまでではなく、単に色数を減らしたいだけの場合が多い。Apple や 無印良品みたいな雰囲気にしたい、とか。

シンプルに、と言われた時はどのようなものをシンプルと感じるか、スタイルの話なのか、それとも根本的に今ある設計を見直して要素を研ぎ澄ましたいのかを、注意深くヒアリングする必要がある。


直感的に

手続き型 UI にしたい

これは UI デザインの要望としてよく言われる。
しかしこの「直感的に」は「一貫性がある」「 OS の作法にのっとっている」など、デザイナーが使う意味での「直感的に」とは異なることが多い。

「直感的で分かりやすい操作」という言葉もよく聞くが、実際は直感的な操作というのはそこまで分かりやすくない。

たとえば「リストをフリックしたら削除できる」とか「長押ししたら移動できるようになる」などの操作は、使い慣れた人には直感的だが、全く使ったことがない人には分かりにくい。少し操作にイマジネーションが必要だ。
そして、使い慣れるために、失敗してもすぐ戻れるようにするなどイマジネーションを広げられる土壌が必要だ。

しかしよくよく聞いてみると、実際は銀行の ATM のように「残高照会」とか「振込」とか、タスクが一つ一つボタンになっていて、そこから手順通りに進める UI を希望しているケースが多い。タスク指向で、迷いなく決まった手順を辿れるような UI 。だから「直感的」と言われて、ついモードレスに作ってしまうと「分かりにくい」と即座に拒絶されてしまう。

では言われた通り、タスク指向の UI にすればいいのかというと、そうではないが、ビジュアルを見せるタイミングで突然 OOUI ( ※1 ) について説明しても、なかなか伝わらないのが現実だ。

「直感的に」と言われた時はその定義について時間をかけて会話しなくてはならない。

また別のケースとして、順番の入れ替えをドラッグ & ドロップで行ったり、フリックで画面を切り替えたり、操作する対象を直接さわって動かしたい、という意味で「直感的に」が使われることもある。スキューモーフィックデザインが主流の頃はこれが多かった。
しかし直接触って動かす UI は、かえって操作しづらいことがある。たとえばスライダでの数値入力は、音量や速度の入力には良いが、体重など決まった数値を入力する場合には向かない。使い所についてはじっくり検討すべきだ。


遊び心がない

愛着を形成するための要素が足りない

設計はよくできているけど、ロゴと写真を変えたら他のサービスでも使えてしまう、なんていうときに「遊び心がほしい」と言われる事が多い。
ここはスタイリングの出番だ。そのブランドならではの要素をあしらう、有機的な動きを作るなど、チャレンジできることがたくさんある。私は Twitter のホームアイコンが鳥小屋モチーフになっているのがたまらなく好きなのだけど、そういう小さなことでもいい。

サービスやブランドをよく理解した上で、ならではの要素を入れよう。ユーザーの心を掴むような。このデザインは難しくも楽しい。


赤字にして / 文字を大きく

目立たせたい

直接指示系のオーダー。
プログラミングと違い、デザインは専門家でなくても「こうして欲しい」が言いやすいからか、具体的な指示をもらうことが多い。この手のオーダーにデザイナーはヘソを曲げてしまいがちだ。プログラマーだって、クライアントに「そこはシングルトンで実装して」とか言われたらムッとするだろう。

しかし別にこれはデザイナーを無能だと思ってされる発言ではない。目的よりも方法が先にうかぶのは、誰にでもよくあることで、真意は「目立たせたい」だ。

もちろん言葉どおり、赤にしたり文字を大きくしたら目立つわけではない。特に UI デザインではそうだ。
グラフィックデザインがそのグラフィックの置かれる場所を考慮して工夫されるように、UI デザインもまた、画面の移り変わりや、スクロール、利用シーンを考える必要がある。どんなに目立つスタイルで文字を表示させても、コンテキストによってはユーザーには見えない。大げさではなく本当にありえないぐらい気づかない。

なまじ静止画で見るとちゃんと目立っているように見えるからやっかいだが、プロトタイプツールを利用するなどして、できるだけ実際に近い流れの中で見て、目立つように作らないといけない。
『錯覚の科学』に出てくるゴリラとバスケットボールの実験 ( ※2 ) なんかは、そのことをクライアントにも伝えやすいので、一緒に動画を見てビックリするのもいいかもしれない。


こんな風にしてください( と自作の画像が登場 )

 必ずしもその通りにしたいわけではない

うまく言語化できない違和感を、自分なりのビジュアルにおこして伝えてくれる人もいる。お株を奪われる感じもするし、これをそのまま採用しなくてはいけないのだろうか、とあまり良い気がしないかもしれない。そんな時はひとつひとつ、相手がそのビジュアルにした理由を紐解いていこう。ちゃんと理由をきくと、他にも解決策があることが多い。

作ったビジュアルに愛着をもっている可能性もあるので、それを理解した上で、共感し、理由をきき、アイデアを出して一緒に考えるのが良い。面倒なのにわざわざ形を見せてくれる人だ。一緒に作るようにしたらもっといいデザインが生まれるかもしれない。

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いろいろ対策を書いているようでいて、結局大事なのはよく訊いて、観察して、足りないものを見つけることだ。

あまり型にはめてしまうと判断を誤るから、こう言われたらこうでしょ、とパターン化しすぎるのはよくない。しかし、よく言われるフレーズに込められがちな思いは、知っていた方がやりやすい。ある程度可能性を絞り込めた方がいいから。

私は昔、ネイルに関する Web サイトを作ったことがある。
何度デザインを出しても「インパクトがない」としか言われなくて、どうしたらいいか私も、クライアントも分からなかった。
それでネイルやギャル系の雑誌全部見て、一つずつ分析していった。
すると当時そういう雑誌では、ハートのモチーフが異常なぐらい使われていることを知った。各ページに平均5〜6個のハートが様々な形や色で描かれていた。そこで Web サイトのデザインの一部にハートをあしらってみたら、それが大正解だった。

意識してハートを見ていなかったから、それが足りないと気づかなかった。でも無いことには気づいていた。それはたぶん言葉にするのは難しくて、別の言葉になってしまったりするのだ。
何が足りないかは、言葉を発した人にも分かっていない。質問して、答えて、言葉にするうちに見つかるのだ。

逆にデザイナーではない人は、誰かのデザインに対して「インパクトがない」と言いたくなったら、なぜそう思ったのか考えてみるといいと思う。
おそらく欲しいのは「インパクト」ではないだろう。違うなら別の言葉で言えないか検討するといい。少しでもヒントがあったほうが、その後のコミュニケーションが円滑になる。

まあでも、何も思いつかなかったら「インパクトがない」って言っちゃっても大丈夫だ。「エモくない」だっていい。言語化できないからといって、違和感をないことにしてしまうのが一番いけない。

デザイナーはきっとそこから、あなたが自覚してない真意にまでたどり着いてビジュアル化してくれる。それができるのが、それこそがデザイナーだろうと思うし、私はそうありたいと思う。

書き手:デザイン部 高取 藍

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( ※1 )
OOUX – オブジェクトベースのUIモデリング
https://www.sociomedia.co.jp/7279

( ※2 )
The Invisible Gorilla
http://www.theinvisiblegorilla.com/videos.html


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