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育児中で時間がないデザイナーのためのインプット&アウトプット方法

子どもができる前までは、週末が来るのを心待ちにしていた。

金曜の夜はいつも夜更かしして、本を読んだり、録画したドラマをみたりして、昼に起きてカフェでブランチして映画を見に行ったり、はたまた家から一歩も出ないでガラスの仮面を読んだり。

新しいデザインツールが出てきたら、片っ端から試したし、自分のブログも更新したし、絵を描いて絵本を作ったりもした。あまつさえ、ジムに行って腹筋を鍛えることすらできた。

自分がどの時間を使って何をするのかは自分でコントロール可能なもので、時間とは作るものだと思っていた。

私の子どもは現在 5 歳、まだ週末を十分に理解しない。彼には毎日、日の出とともに新しい日がやってくる。それは希望に満ちた日だ。

今が何曜日の何日なのかは関係ない。目覚ましも必要ない。私は毎朝5時に、それはそれは可愛い声で目を覚ます。

「 ママおはよう、お腹空いた 」

時間がない

時間がない、時間がない、とはいうけれど、時間がある時など永遠にやってこない。だから我々は計画しなければならなない、と人はいう。

しかし、子育てシフトは本当に時間がない。マルチタスクでイレギュラーも多く、毎日が同じようには進行しない。計画?計画どおりになることなんて、何一つない。働く親は男女関係なく、家事育児に追われつつ、かろうじて仕事とのバランスを取っていることかと思う。

もし時間を作ることができるとすれば、それは子どもとの時間か睡眠を減らして捻出するものであろう。

子どもとの時間を減らすことは、人それぞれの優先順位があるから一概にダメとは言えない。しかし私はそれを選ばなかった。睡眠時間を減らすことは試してみたが、体調を崩してしまったので今はやっていない。

時間がなくてデザインのインプットやアウトプットがなかなかできない。これはデザイナーとして致命的なのではないか、という気持ちになるかもしれない。私自身、子どもを持つ前はそう思っていた。

しかし案外そうでもない。デザイナーのインプットはそこかしこに存在する。机に向かってツールを操作することがデザインのすべてではないように、デザイナーのインプットやアウトプットも机に向かってするものばかりではないのだ。

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時間がなくてもできるデザインのインプット

💡保育園を観察しよう

共働きの世帯では、子どもを保育園に預けている人が多いと思う。保育園は素晴らしい。発達心理学を理解した保育士さんによる、仮説と検証を繰り返して蓄積された知見が山程ある。

例えば、トイレ前のスリッパ。

スリッパを使うたびにキレイに揃えるように、幼い子どもたちに注意するのは骨が折れるだろう。しかし保育士さんは、一言も発せずにスリッパをキレイに並ばせることができる。

床に白いビニールテープを格子状に貼り付けるのだ。子どもたちはその格子の中にスリッパを入れたがる。駐車場に車が停まってるみたいに、スリッパはキレイに並ぶ。

こういった保育士さんによるシグニファイアの設計は家庭でも簡単に実行できるものが多い。発達の状況によっても微調整されるので、毎日園内を見るたびに発見があって面白い。

子どもへの声掛けについても大変に参考になる。保育士さんの子どもへの声掛けは基本否定語を使わない。

「 ドタバタ走らない! 」ではなく「 忍者みたいに歩いて 」
「 うろちょろしない! 」ではなく「 今から10秒お地蔵さんに変身しよう 」
「さわらない!」ではなく
「 素敵なものはカメラにとってね!カシャッ!( カメラを撮るポーズ )
※ 結果両手が塞がるので触れなくなる

そのボキャブラリーの多さといったら!気づいたら反射的に「ダメ!」ばかり言っている自分の発想力のなさよ...。

普段忙しくて保育園に行けていない、なんて人がいたらぜひ送り迎えのどちらかだけでも行くべきだ。あそこはデザイナーにとって宝の山だから。

💡絵本を読もう

子どものタイプによって好き好きがあるので、全員が可能なわけではないが、絵本は子どもとの遊びの中で体力を消耗せず、比較的楽なのおすすめだ。

何より絵本はその絵も言葉も最高のインプットになる。売れてるもの、そうでもないもの、シュールなもの、感動的なもの、シンプルな絵、写実的な絵、ジャンルを問わず、どんどん読んでいこう。

『 じゃあじゃあびりびり 』が何故あんなにも子どもの心を捉えるのか、少し考えながら読んでみてもいいかもしれない。

私が子どもと絵本を読むようになったのは、まだ子どもの首もろくに座ってない頃だ。

この時期の赤ん坊は目もあまり見えていない。そして自力で移動することができない。しかしいつも天井ばかり見ていると飽きるのか、ぐずる。
私はそんな赤ん坊を抱っこして、部屋中を歩き回っていた。地味に疲れる。そんな時思った。もしかして歩き回らなくても景色が変わればいいんじゃないか。

試しに添い寝して絵本を開いてみた。効果てきめん。とりあえず、絵本さえ読んでいればぐずらなかった。以来私は絵本を読み続けている。幸い絵本は図書館でいくらでも借りられる。今でも毎日何冊も読んでいる。

せっかく読むなら記録をとったり、感想をまとめたりした方がいいかな、と思った時もあるけれど、そうすると同じ本を何回も読むのが不毛なように感じるので、やめた方がいいかもしれない。『がたんごとん』も『もこもこもこ』も『理由があります』も、何百回も読むハメになるから。

ちなみに私は絵本を読む時、読みながら別のことを考える事ができる。だからたまに気がつけば UI 設計などを頭の中でしている時がある。多少罪悪感があったが、ダニエル・カーネマンの本に「誰しも悪いなあと思いつつ全然別のことを考えながら絵本を読んでやったことがあるだろう?」みたいな記述があったりして、人の親は誰しもそうなのだなあ、と納得した。

システム 1 が絵本にとられているので、システム 2 でより深く考える事ができるのだろう。そんな時はちょっとしたひらめきも得やすい。子どもには悪いけど、子どもだって単に読み上げてほしいだけの時もあるだろう。※ 1


💡散歩しよう

散歩といっても子連れの場合、ぼーっと考えごとができるわけではない。しかし 1 人 で出かける時とは違った形で得るものがある。

どの道にも、子どもの背の高さでしか見つけられないものがある。恋人と話しながら歩いても、色んな思想で世界を捉えることはできるけれど、大人とは違う目の高さで、歩くスピードで、この世界を覗けるのが子連れの特権だ。小さな手首をそっとつかんで、たくさん散歩に出かけよう。...少し腰が痛くなるんだけどさ。

また子連れで出かけると、いかに世界が健康で標準的な人間を基準に作られているかが分かる。
わずか 5cm の段差に絶望的な気持ちになり、満員のエレベーターを何度も見送る。ああ、障害というのは社会にあって、人はそれを被るのだな、と実感する。

子連れは簡単に社会の被障害者になる。では本来どうあったら過ごしやすいだろう。もしくは、どうやったらその状況すら楽しめるだろう、デザイナーが考えるべきことはたくさんある。

💡やっぱり読書がしたい

息をするように本を読む私だけれど、子どもが生まれて数年はやはり読書の時間を確保するのが難しかった。どうしても読みたいものは睡眠時間を削って読んでいた。なんとかもっと読む方法はないものか、と試行錯誤した結果、Kindle を iPhone のスピーチ機能で聞く方法にたどり着いた。

設定 > 一般 > アクセシビリティ > スピーチ をオンにし、Kindle の画面上で指2本を上にシュッとスワイプすると読み上げが始まる。

我が家の寝かしつけは、部屋を真っ暗にして添い寝をし、寝たフリをしておいて、子どもが寝たらそっと離れる、というオーソドックスなものだ。
この " 寝たフリ" のフェーズで、片耳にイアフォンをつけて本を聴く。ポッドキャストでもいい。私はよく長谷川恭久さんの Automagic Podcast 聴いている。

ただこの方法は高確率で寝落ちしてしまうので要注意だ。

そういえば、抱っこ紐に赤子を入れて、本を朗読しながら家の中を歩き回る、というのもよくやっていた。黙読するのではなく音読するのがポイントだ。赤ん坊はそれを歌か何かだと思うらしい。

ちなみに Kindle は Alexa に読ませることができるので、流しながら家事ができる人はやってみるといいかもしれない。

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時間がなくてもできるデザインのアウトプット

🎨工作しよう

粘土で遊んだのはいつぶりだろうか。砂遊びは?

実際に手を動かして試行錯誤するのは、大人になっても楽しいもの。子どもがやる様子を眺めると、どうしても完成度を求めて手を出しそうになりがちだから、自分も一緒に作ってみるのがいい。

特別なものは必要ない。粘土で動物をつくれば動物園になるし、砂場の砂の湿ったところとって丸めたらお団子屋さんになる。クリスマスケーキのカタログを切り抜いて並べたらケーキ屋さんになる。つきなみだけど、子どものきらめくような発想に驚かされることも多い。

まだ子どもが小さいなら、オリジナルのおもちゃを作ってみてもいい。

佐藤 蕗 さんの考案した手作りおもちゃは、クリエイティビティを刺激するだけでなく、とても実用的だ。

しましまトリオ、デコベビーカー、パンダ風呂。正攻法が効かないイヤイヤ期を楽しく乗り越える知恵がたくさんある。何より、困難がおこった時「どんなおもちゃを作って解決しようか」と発想を転換させるという考え方が、私の子育てに対するアプローチを大きく変えることになった。

🎨写真をとろう

言われなくても撮るだろう。これまでの人生で撮影した回数を遥かに超える勢いで写真を撮るだろう。ただ、じっくりピントを合わせている暇はないから、スマートフォンとかコンデジでも構わない。

小さな指先のどんぐりと、その先にある子どもの得意顔。人類とどんぐりの歴史が始まって以来、何億回もくり返されてきたであろう光景に、シャッターを押さずにいられないのは何故だろうな。

写真というより、現実のスクリーンショットと言ったほうがいいのかもしれない。生活の中から遺すべき瞬間を選び取る、意識さえすればこれもまた、デザインのアウトプットだ。

素敵な写真を撮ろうとすると、子どもとの一瞬一瞬がすべて素敵に見えてしまって、気がついたらスマホ越しに子どもを映してばかりになってしまうから、自分の目に焼き付けるのも忘れないように。

🎨やっぱりデザインをしよう

人間中心設計だ!デザインで課題解決だ!なんて言っている百戦錬磨のファシリテーターも、家庭ではさっぱりできていないのではないだろうか。

家事がしやすいように家庭の仕組みを見直すことも、子どもの持ち物を子どもが使いやすいように配置することも、立派なデザインだ。

「また洗剤がきれてるのに補充してない!使いたい時に使えないじゃないか!」とパートナーに怒る前に、なぜそうなるのかを深掘りしよう。
洗剤がきれるタイミングがよく分からず、きれたときにストックから補充できずに後回しになって、そのまま忘れているのかもしれない (  育児はマルチタスクなのでだいたいそうなる  ) 。

常にストックを隣に置いておくようにするべき?
そのための発注フローはどうすればいい?
案外、洗剤の容器を透明にして減っていく残量が分かるようにすればいいだけなのかもしれない。

脱ぎ散らかされた靴も、リビングの椅子にかけられた上着も、床に散乱した靴下も、つぶさに観察してみればそうなる理由がある。どうすれば靴は出かける時に履きやすい状態で置かれるようになるのか、どうしたら上着はハンガーにかけられるのか、どうすれば靴下は洗濯カゴに入るのか、そのデザインを考えてみる。相手が子どもの場合は、保育園でのやり方がヒントになるだろう。※ 2

うまくいくコツは、勝手に決めて押し付けないこと。家族にインタビューし、観察をし、試作をし、改善しながらやっていく。どういう暮らしがしたいか、ビジョンを共有することが重要だ。

これって普段仕事でやっているデザインと何も変わらない。

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...なんだ、普段の生活でしている事と同じじゃないか、と思っただろうか。結局インプットもアウトプットも " 毎日をどんな風に過ごすか " でしかない。24 時間を切り取って使うのではなく、その 24 時間どう過ごしたらいいかデザインすればいい。

だって、ほら、デザイナーなのでしょう?

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子どもができる前までは、週末が来るのを心待ちにしていた。
でも今は違う。平日は週末のために働く日ではなくなったから。
私にも毎日、日の出とともに新しい日がやってくる。
それは希望に満ちた日だ。

この記事が、子どもは可愛いけど忙しくて時間が取れなくて、デザインのインプットもアウトプットもできない!そういう悩みを抱え得ているデザイナーにとっての一助になれば幸い!

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参考文献
※ 1  ) 脳のシステム 1 、システム 2 の話👇

※ 2 ) 具体的な方法はこの記事に以前書いたので参考までに👇

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書き手:デザイン部 高取 藍

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