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東京中心設計にアクセスせよ

十数年前、私は関西から東京に移り住んだ。
「 東京の制作会社やったら、最新版の FlashPlayer を使った案件ができるらしいで 」という知人の入れ知恵によって、安直に移住を決意したのだ。

当時は Flash 全盛期
バージョンアップのたびに、新しい技術が使えるようになり、カメラや Flash Streaming Server を利用したインタラクティブなコンテンツを作れるようになっていた。

しかし、実務では 2 つ以上前の Flash Player と後方互換が必須事項になっていたりして、歯がゆい思いをしていた。新しい技術を使いたい、その思いだけで私は故郷を離れた。

東京の時間と地方の時間

実際、東京は関西の 2 年くらい先をいっている感じがした。そして自由だった。自由とは、選択肢が多いということだ。

テレビ、雑誌、ネット、で話題になっている所があれば、今日にでも行って見ることができる。
電車は次から次へと途切れることなくやってくるので電車の時間にあわせて行動する必要がない。
飲み屋と喫茶店以外にも夜遅くまで空いている店がたくさんある。

案件の予算も潤沢で、Apollo ー 後に Adobe AIR と呼ばれることになる技術を使った Rich Internet Application を、私は夢中になって作った。

勉強会やセミナー、交流会も盛んだった。
当時屈指の Flash Developer 達がライブコーディングするクラブイベント( ※ 1 ) まであった。

毎日が刺激的で、楽しかった。

東京中心設計

日本のデジタルデザイン業界は東京中心設計だ ( ※ 2 ) 。特にことわりなくイベントが告知されたら、それは東京で開催されるし、多くのペルソナに登場する女子高生はだいたい首都圏に住んでいる。

ビジネスの中心も東京だ。東京はチャンスが多い。

東京では UI デザインツールといえば Sketch や Figma が主流でも、関西ではまだ Photoshop や Illustrator での納品を求められる。

東京に住んでいる人は、ディレクターだけでなく、デザイナーもエンジニアも、もっとミーティングに参加すべきだ、なんて言っていたりする。
しかし関西に住んでいたら、東京との往復だけで一日が終わるのだ。新幹線の中ではできない仕事も多い。おまけに出張費用がかかる。地方の会社にとって移動の時間は足枷になる。

私達がユーザーを想定するとき、デザイナーという職業の人を想定するとき、いつも何不自由ない人物を、当たり前のように選んでしまう。本当はみんな日常的に、突発的に、少しずつ不自由を抱えていて、それぞれのやり方でやり過ごしているというのに。

そして東京に住んでいても不自由はある

私は東京で過ごすうちに、もともと東京に住んでいる人は海外に目を向けていることに気がついた。

私が関西で、東京に対して思っていいたように、東京に住んでいる人は、カリフォルニアを思っている。デジタルデザイン業界はカリフォルニア中心設計だから。

それならば、別に東京にいる必要はないかもしれない。

やがて高性能で軽いラップトップが次々に登場し、Skype など、テレビ会議システムの精度もあがっていった。解像度の高いやりとりが、遠隔でもできるようになってきたのだ。

海外ではオフィスを持たないスタートアップも出始めたそんな頃、私は関西に戻った。

場所を選ばない働き方ができれば、もっとリモートで仕事ができれば、東京にいても関西にいても、世界中の人と仕事ができるはずだと思った。

アクセスせよ

それから十数年。まだリモートワークは主流ではない。しかし思ったよりは遅いけれど、少しずつ状況は変わり始めているように思う。

大阪に本社を置くFenrir でも、数年前まではディレクターが何件か掛け持ちで東京へ出張して対面のミーティングに参加し、要件をまとめて帰ってきて、デザイナーに共有する、という業務フローが大半だった。

しかし今では、Hangout などを使って東京の現場と大阪のオフィスをつなぎ、異なる拠点でミーティングを共有することが多くなってきた。
大阪にいるデザイナーはその場でデザインを修正し、データを送信する。そして、それをもとに議論を深める。

Slack や Chatwork などを使ってカジュアルにデザインの途中経過を共有する、といった非同期でのやりとりも盛んになってきた。

現場の調査やユーザーテスト、インタビューなど、直接会うことが明らかに価値が高いものも、やはりある。

しかしこれまで対面でないと難しかったデザインのサイクルが少しずつ、リモートかつ非同期でもできるようになってきている。勉強会やセミナーもネット配信されることが増えた。

リモートや非同期でのやりとりが増え、東京中心設計へのアクセス手段が増えると、東京の中心にいるデザイナーも恩恵を受ける。

天候や健康状態、ライフステージによって、東京に住んでいても" 東京 " にアクセスできなくなることはあるからだ。

対面でないことがかえって、プロトタイプなどの現象化されたものをやりとりし、デザインをしていくプロセスを促進していっているようにも思う。

離れていると、現象化されたものなしに話をすることが難しいからだ。これはデザインのプロセスを変え、作るものを変えていくだろう。

* * *

とはいえ、まだ現状は離れた拠点をつないでいるにすぎない。それだけでは、十分にアクセスしているとは言えない。コンテキストにとらわれず、自由にアクセスできる環境がもっと必要だ。

すべての、ほんとうにすべての人がアクセスできるように。場所と時間以外の障壁も取り払われたら、私達のデザインはどう変わるだろう。

そのためにまず、私が、私達が、地方からアクセスしていかなければならない。これはインターネットがもたらした欲望なのかもしれない。

東京中心設計にアクセスせよ。
自分が手にしたあらゆる手段を使って、今すぐ。

* * *

( ※ 1 ) DesktopLive.as / ActionScript Live Programming Battle
探してみたらニコニコに当時の動画があがっていた!

ライブコーディング中 
http://www.nicovideo.jp/watch/sm6523949
結果プレゼン 
http://www.nicovideo.jp/watch/sm6524352

( ※ 2 ) 東京中心設計とカリフォルニア中心設計
この言葉を最初に聞いたのは長谷川恭久さんの「デザインの伝え方ワークショップ」だったと思う。
https://blog.fenrir-inc.com/jp/2018/02/workshop_design-critique.html

ちなみに!このワークショップすごくおすすめです。
2 月に神戸でもうちょっとデザインにフォーカスしたやつがあるらしい!
http://cssnite-kobe.jp/vol38/vol38list/vol38outline.html

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書き手:デザイン部 高取 藍

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