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若いデザイナーがこれから身につけていくべきスキルとは

岡山県立大学のデザイン学部の演習に、共同授業という形で参加させていただきました。

与えられたテーマでアプリのデザインを行うという演習に20名弱の学生が挑戦したわけですが、身近なところに課題を見つける着眼点学生ならではの発想力それを自分なりの解釈でアウトプットできる表現力など、感心しっぱなしでした。こういった若者がこれから社会に出ていくのかと思うと、非常に心強いという気持ちとともに、こっちもウカウカしてられないなという危機感みたいなものも感じるのでした。

さて、この共同授業を通して、こういった有望な若者たちがその才能をもっと伸ばしていくにはどうすべきか、改めて考える機会をもらったので、今回の取り組みをご紹介するとともに、今日はそれについて記したいと思います。

共同授業の内容

10/16 テーマ説明&UXデザインに関する講義(約2時間)
11/14 成果発表&レビュー会&表彰式(約4時間)

共同授業のテーマは、「バイタルサインを活用したアプリのデザインを行う」というものでした。まず、最初に課題発表と課題制作にあたっての注意点の説明、UXデザインの講義をフェンリル本社のあるグランフロント大阪のホールで行いました。講義後に、学生たちが自分のポートフォリオのレビューを積極的に受ける姿がとても印象的でした。

UXデザインの講義の模様。講師はデザイン部の松浦

そこから約1ヶ月の期間を経て、学生たちが課題を作成し、先日、ポスターセッション(ポスターサイズに概要をまとめて掲示し、審査員である我々がそれを見て回るという、学会とかでよく取られる形式)にて発表会を行いました。

最後に、学生の成果をフェンリル側で、実現性・独創性・表現力・プレゼン力・論理性という5つの観点で評価し、優秀であった学生を表彰しました。

今回は我々が岡山に訪問しましたよ。

学生の成果発表

成果発表を行なった学生は全部で18名。演習では、いつも途中ドロップアウト組が結構な人数いるそうなのですが、今回は参加率が非常に高かった模様。しきりに先生が「プロの方のアドバイスが受けられるんやで!」みたいなことをおっしゃっていたのですが、その都度プレッシャーを感じていたのは内緒です。

「バイタルサインを活用したアプリ」というテーマは先生が考えられたのですが、そもそもバイタルサインとは何か、というところからの理解とさらにそれを計測する機器やシステムなどを考慮する必要があるため、非常に難易度が高いんじゃないかと思っていました。ですが、学生たちは身近な体験からバイタルサインを定義することにより、それに対する理解・認識を深めており、ちゃんと腹落ちしながらアイデアを練ってきたのだなという印象を持つことができました。素直にすごい。

学生たちの作成した成果発表用のポスター一覧

課題認識までの経緯、ペルソナの設定、デザインのプロセスなどをドキュメントを用意して伝えるだけでなく、Adobe XDで動くモックアップを作成してプレゼンする学生も複数名いて、どう表現するか、という部分については何の問題もありませんでした。

最終的に、最も総合点の高かった学生に最優秀賞、次点が優秀賞で2名、ベストアイデア賞、ベストプレゼン賞、審査員特別賞の計6名を表彰しました。

総評1:「何を」表現すべきか考え抜こう

さて、今回の総評については、表彰式後に私の方から伝えたのですが、改めて文字にしてみます。全体的には大満足で、ものすごく刺激を受けたのですが、あえて足りなかったと思った点をプロの視点(笑)で2つほど。

先ほど、どう表現するか、という部分については何の問題もなかったと書きましたが、今回、少し物足りなさを感じたのは、何を表現するか、の部分です。

アプリの機能が豊富であることは、一見、魅力的に見えるかもしれませんが、それは、ユーザーにとっては+αの魅力でしかありません。本来、ユーザーが解決したい課題があって、それをもっとも解決してくれそうなアプリやサービスは何か、という文脈で探索行動を起こすのが一般的です。そこで選択肢に入らなければ負けです。使ってもらうどころか、ダウンロードすらされません。要するに不戦敗です。

課題の把握とコンセプトが重要であるということは、誰しもわかっていることだとは思いますが、課題の把握やコンセプトが優れていても、それが適確に、そのまんま伝わるカタチ、コトバで表現されていなければ、土俵にすら上がれないのです。

「何を」できるアプリなのかを明確にし、UIで、コピーで、スクショで、テキストでそれを全力で表現する、それができて初めてダウンロードや初回登録をしてもらうことができます

ユーザーがどうやって自分のアプリにたどり着くのか、それを考えるだけで、アプリのコピーや説明文はおろか、アプリのUIデザインすら変わってくるのです。

総評2:サービス提供者の目的をクリアにしよう

もう一点、これは学生の課題発表の場であり、RFP (Request For Proposal:提案依頼書) などがあるわけではないので致し方ない部分もあるのですが、やはり、そのアプリやサービスを、誰が何のために提供するのか、という部分がもっとクリアになればよかったなと思います。

比較的、通常のクライアントワークでも起きがちなのですが、「誰が」が明確でも、なぜ提供するのか、という観点が抜け落ちていると、拠り所がないため、フワフワした議論に終始してしまうことがあります。

なぜ、というのはいわゆる「ビジョン」として、はじめの第一歩で固めておく必要があり、それにより、何をやるべきで、何をやらざるべきかという判断を行うことができるのです。

そういう意味では、学生のうちからそれらをしっかり考え抜いた上で企画やデザインを行うことができるような人材であれば、ビジネスというフィールドでも即戦力として活躍できるのじゃないでしょうか。

若いデザイナーがこれから身につけていくべきスキル

さて、学生の発表に対する総評として2点ほど書きましたが、ここからは学生に限らず、あらゆる若手デザイナーを対象として、その才能を伸ばすためには、何を考え、どうすべきかということを書きたいと思います。

まず、ツールを使いこなせるかどうかとか、ある程度のビジュアルデザインができるかどうかとか、そういうのはもう満足いくまでやってください。自分が表現したいと思ったものを、思った通りに表現できる力は、デザイナーとして当然備わっているべきスキルだと思っています。

次に、UXデザインやHCDなど、UXに関する知識や手法も同様です。まだまだ、デザイン=ビジュアルデザインという認識がされることも多いですが、これからはビジネスであればどのような現場でもUXを無視したサービス開発/プロダクト開発はあり得なくなるでしょう。デザイナーと名乗るなら、知っていて当然と言われる日も近いかもしれません。

で、それができる前提で(結構な前提を置きましたが・・)是非、これから身につけていって欲しいなと思うスキルが3点あります。それは、「ビジネスへの嗅覚」と「ファシリテート力」、そして「マクロ的視点」です。

1. ビジネスへの嗅覚

ビジネスへの嗅覚は、簡単にいうと、「カネになるかどうかを見極める力」なのですが、直接的に、カネを稼ごうぜベイベーと言いたいわけではなく、これからやろうとしていることと、ビジネスがきちんと結びつくかどうかを考える力を養ってもらいたいということです。

そもそも、UXへの理解が前提であれば、短期的なお金儲けに走るようなことはしないと思うのですが、それにしても、よりよいUXを提供するためには、サービスの継続性というのが何より大事ではあるので、それを保証する提供者の収益源の確保は絶対必要なわけです。

ユーザーが〜、ユーザーが〜、と声を揃えて言ってみたところで、儲からなければ(厳密には、ブランディングのためにやる場合もあるし、儲かっても売却されることもあるしで、儲からなければ継続できないというわけではありませんが)、サービスを継続することすらままなりません。

アプリ、サービスの将来を見越して、どのように収益を上げるべきか、どこにキャッシュポイントがあるのかを見極める力、これがどうすれば身につくのかというと、ただただ世の中のビジネスモデルを学ぶしかないんじゃないかと思います。

何らかのサービスを使うとき、これはどうやって儲けてるんだろう、どうやって継続性を担保しているんだろうということを考えてみる、そして調べてみる、この繰り返しで、「ビジネスへの嗅覚」は養えると思います。

ビジネスモデルを学ぶには、チャーリーさんのnoteが圧倒的にわかりやすいのでおすすめです。書籍もあります。

2. ファシリテート力

事業会社では、ひとつのサービスを作るためには、最初から最後まで様々な職種の人が絡み合って、チームとして動くのが当たり前になりつつあります。私はデザイナーだから、デザインだけしてればいいや、というのはもはや通用しません。

デザイナーと言えども、エンジニアリングへの理解が求められるし、戦略や企画面での意見を求められることも多々あります。

もちろん、未だに分業制を敷いている開発会社も多いですが、いずれの場合においても、様々な役割の人たちと関わりあいながら業務を進めることに違いはありません。上流から参加する場合の方がより必要になるのがファシリテート力です。

いろんな人と関わる時に、同じ方向を向いていたとしても意見や価値観の相違があります。それでも、ひとつの解を導き出さなければならない、そんな場合に必要になります。

場をファシリテートするには、その場にいる人たちの知っていること、知らないことを明らかにする、みんなの声に耳を傾ける、共感する、その真意を理解する、落とし所を見つける、といったようなことが必要になってきますが、これらを自分の意見やアイデアをもちながらやるのはなかなか至難の技です。

それでも、デザイナーがやらなければならない理由は、最終的に議論した内容が絵となり形となるわけで、その時に落とし所を見つけていなければ、手戻りするのがわかりきっているからです。そうなることに強い危機感を持つ筆頭はデザイナーでしょう。

スクラムやHCDなどの手法を使いながらプロジェクトの目的や概要を詰めたとしても、それが本当にメンバーの総意か、意思決定者が言いたいことはそれ以上ないか、などきちんと出し切られていないとちゃぶ台返しにあう可能性があります。議論の場では、うまく言語化できなくても、絵が見えて来た段階で当初合意形成したものと全然違うことを言い出す人もいます。

最初から何でも共有できるいいチームを作ることができれば、問題ないですが、クライアントワークの場合、そうも言ってられないですからね。

ファシリテーションの詳細は、色々書籍が出ているので読んでいただくとして、ファシリテート力とは、チームで共創するという、これからサービス開発の現場ではなくてはならないスキルなので、一歩先んじたい人は是非積極的に学んでいってください。

3. マクロ的視点

ユーザー体験をよりよくするためにユーザー理解から解決案の提示まで、一貫してユーザー視点でデザインすることをUXデザインといいますが、このUXデザインやHCD(人間中心設計)のプロセスを回すだけでは、社会をよりよくするという考え方が入り込みにくいのでは、と最近感じています。

一部のソシャゲーを例に出してみましょう。"UXデザインの手法の元、ユーザーのインサイトを発見し度重なるユーザーテストで検証・改善を繰り返し、最終的に、高品質のグラフィック、通勤や通学途中でもストレスなくできる考え抜かれたUIを提供することができた。" お手本のような完璧なプロセスです。

ですが、ある程度操作を覚えると、単純にタップを繰り返すだけの作業ゲーと化し、達成感もなく、何を生み出すこともなくただ時間とお金が浪費されていくものも多く、日本人の生産性がこの手の作業ゲーにどれくらい奪われているのだろうかと考えると、この国は大丈夫だろうかという気さえしてきます。

個々のユーザーの体験がよくなっても、社会がよくなるとは限らないし、むしろ悪化する場合もあるわけです。また、ユーザー体験を良くするために、提供者側が長時間の残業を強いられたり、劣悪な条件や環境で作業せざるを得なかったり、というのも同じことです。

もちろん、あらゆることを考慮しながらデザインすることなど不可能だと思います。ですが、少なくともデザイナーにそういう視点があるかないかで、社会の良し悪しが変わってくる可能性があるのだとしたら、これは、是非持ち合わせて欲しいと思うのです。

元々、多くの企業には理念やビジョンがあって、そこには会社の存在意義や社会に対してどのように貢献していくかが書かれてあることが多いので、そういう場合は、そこに立ち返るためにもトップに対するエグゼクティブインタビューが効果的です。

そうでない場合は、自分が作ろうとしているサービスを俯瞰してみることです。ユーザーに対する価値だけではなく、サービスを継続することにより、社会に対してどのような影響が起こり得るのかを考え、理解し、声に出していってもらいたいのです。

そうすることで、デザイナーは社会をよりよくする存在であり、どのような現場においても重要なポジションを担う職業である、という認識が広まり、この国をデザインの力で変えていくことができるのではないでしょうか。(大層すぎる??)

上流を目指すほどデザイナーの生存競争は激化する

さて、長々と書いてきたわけですが、これらのスキルをすでに学んでいる人たちがサービス開発の現場で活躍し始めています。それはビジネススクールの卒業生たち。最近のビジネススクールでは、デザイン思考やサービスデザイン、経験価値など、UXデザイナーに必要とされるような知識も教えているようです。

それが何を意味するかというと、これからのデザイナーは、すでにビジネスやデザイン思考を学んでいるMBAホルダーや経営学を学んだ優秀な人たちと競争せざるを得ないということなのです。サービスの上流を目指せば目指すほど激しい生存競争にさらされるのです。

ですが、デザイナーには表現力があります。

** 自分が表現したいと思ったものを、思った通りに表現できる力は、デザイナーとして当然備わっているべきスキルだと思っています。**

と、中ほどで書きましたが、デザイナーがデザイナーたる所以は、思ったものを形にすることができる、ということだと思います。

何らかのサービスを検討するとき、どれだけ活発な議論が繰り広げられたとしても、絵(ビジュアル要素)がなければスムーズに進んでいきません。そうすると、最終的にボールが廻ってくるのは、絵が描ける人のところなのです。

表現力を磨きながら、ビジネススキルをどんどん高めていくことで、次代を担う人として活躍してもらいたい、そして、よりよい社会を自分たちの手で作っていってもらいたいと思います。(最後は他力本願)

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謝辞

最後に、今回の共同授業をご提案、ご尽力いただいた岡山県立大学の益岡先生、尾崎先生、並びに学生の皆さん、誠にありがとうございました。是非、このような取り組みを今後も継続できればと思います。

追伸:岡山土産は「蒜山ショコラ」

岡山土産に蒜山ショコラを買いました。フォトジェニック!


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